Two day
「竜崎」
黙りこくってむっつりと何やら思索にふけっていた夜神月が急にLの偽名を呼んだ。ぽりぽりと鼠のように前歯を立ててクッキーを齧りながら調書のうえに屑をこぼしていたLは、
「まんでふは」
と、大変聞き取りにくい声で返事をした。
なんですかと言ったわけだが、頬袋にクッキーを詰め込みすぎてうまく喋れなかったのだ。
しかしそれはLにとって常からのことだったので、月は気にせずかまわずに大変まじめで真剣な表情でLを見つめ、問いかけた。
「ひとめぼれって経験したことある?」
Lは思わずごほっと噎せた。細かい破片が、クッキーの粉だらけの唇から飛び出て飛散する。
「……ひとまず、呑みこんで」
眉をしかめて、ポットか注ぎたしてくれた月に目線だけで謝意を告げ、ティカップを引き寄せて紅茶をひと飲みした後、ふうっと満足の吐息をつき、Lは怪訝な顔で訊き返す。
「……薮から棒になんですか」
「ミサの…気持ちがよくわからなくて」
「ああ、月くんに対する恋心のことですか。それで悩んでいたんですか」
「……」
「贅沢な悩みですね」
Lの返答に困惑し、月は睫毛を伏せて足元の方へと視線を落とす。憂いを含んだ気弱な月の表情に目を丸くして、Lはぱちぱちと目を瞬かせた。
少し考え込むように黙り込み、くちびるに指を押しつけてあさっての方向へと目線を投げる。
「そうですね。例えばこんな感じですよ。…その人を見たときにビビっとくるんです。あ、この人だと。そうして知ったときから頭から離れず、その人しか考えられなくなる。四六時中考えて身も世もなくなるほどに執着する。そうなってしまったら、もう本人にも、どうしようもないのです。きっと、恋することの理由はおそらく出会うよりもまえに、予め決められたところにあるんでしょう。しかし理屈は出会った後、そのあとについてくるんでしょうね」
「……へえ。すごいな」
月は珍しいものを見る目付きでLを見た。
「なにがですか」
「だって」
月は一瞬口籠る。質問しておきながら、まさかまともな答えが返ってくるとは思っていなかったのだ。
「……おまえにも、そんな情熱的な経験が?」
「はい」
「そうか……」
月が目を丸くして見つめると、おや、という顔をLはした。
「残念です。ミサさんとは違い、こちらは相思相愛だと思ったんですけどね」
「……?」
「まあ、たまには片想いも良しとします」
にんまりと笑い、Lはクッキーをまたひとつぽんとくちの中に放り込んだ。
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