【注意】月Lの性描写あり
Three day
退廃と爛れた情慾に蒸しあげられた密室で、ふたり。
ベッドの上に寝転んで束の間の怠惰な時間を楽しんでいる。
月は、はだけた衣服を整えもせずに、セックスに乱れたシーツの濡れた部分を眺めている。
竜崎が吐き出したオタマジャクシの集合液。
シーツの上にねっとりと水溜りを作っているのを指でなぞって、笑う。
「……これ、いくらで売れるかな」
「ざっと数十億」
無残なくらい愛されてくたびれ果てた身体をシーツの乾いた部分にグッタリと横たえている竜崎が、眠たげな声でこたえる。
しかし怠惰な声音のわりにセリフの内容だけは威勢よく。
「その根拠は?」
「根拠?」
「うん」
笑いながらの月の指が竜崎に伸びてきて、やわい尻たぶに触れる。
くすぐるような動きで、まだ乾いていない奥のところを掻いて指先をうずめてくる。
固い指の感触に、ん、と微かに声をもらし、竜崎は唇をかんだ。
「ね、根拠は?」
第一関節までを抜き差しして、浅いところで遊びながら、月が先を促す。
一度激しく燃え上がり、燃料となる薪の大半を燃やしつくして消えかけていた慾の火種が、そうしていじられ、
ふたたび熱を孕みはじめる。ふいごを踏んで空気を送り込まれた釜戸のように、赤い炎はまた輝き、すこしずつ疼きが全身を蝕む。
ひくひくと奥が痙攣して、行為の深化を求めてくる。親指を口に含んでその刺激に耐えながら、竜崎はこたえた。
「……Lの遺伝子なら、幾ら出しても欲しいと思う、女性…だけでなく、研究者もいると思いませんか?」
「まあ、実際の人物に会わなければね」
ひどい言い草だ。あれだけ好き勝手に愛を告げたその口で、と内心で反論を呟きつつ。
「……でしたら、私と会ったことのある人にだけ、格安で売りますよ」
ぶっきらぼうに言ってやると、月はおかしそうにくすくすと笑って指を抜き去り、背後に横たわって、ぴたりとからだをくっつけてきた。
両腕で抱きしめられる。背中が暖かくなって、月の匂い、シャンプーのにおいと、汗のにおいが入り混じり、ぬくもりとともに竜崎の全身を包み込む。
「格安だったら僕が買ってもいいかな。精液、製造元を含めて」
「製造元?」
「おまえ自身のことだよ」
私は精液製造機か。
ふざけた言い草に口を曲げながら、竜崎はたずねる。
「それは幾らでお買い上げですか?」
「そうだなあ。たとえば、三か月分の給料で買った、ダイヤモンドの指輪相当とか」
「安い」
バッサリと切り捨てる。この私をその程度の金額でどうこうしようなどとは、片腹痛いと竜崎は笑う。
しかし月はめげないのだ。
「じゃ、オマケに僕の残りの人生も、つける。三か月と云わず、ずっと竜崎のために、稼ぎ続ける。ずっと、おまえのそばにいる。病める時も、健やかなるときも、死がふたりを別つまで」
「……」
「それなら、十分だろ?」
耳元に唇を寄せて、月は静かに呟いた。
さらりと清々しいくせに、まるで傲岸不遜なセリフ。
プロポーズにしては自意識過剰が甚だしい。
答えずにいると、月の手が自分自身の陰茎をつかみ、そっと竜崎の尻を割りひらいた。さきほどまで指先でからかっていた奥の部分をつるりとした性器の先端でさぐり、記憶も生々しく堪能したばかりのそのなかへふたたび押し込んでいく。
腰に腕をまわされて強く引き寄せられ、同時に横たわったまま後ろから軽く腰を突き上げられて奥まで含まされた竜崎は、揺さぶられる動きに合わせて数度、短いうめき声を上げた。熱い塊を挿入される、しびれるような愉悦に全身を痙攣させたあと、脱力して、熱いため息をくちびるからこぼす。
月の、贅肉のほとんどない腹の両脇に突き出た腰骨が、竜崎の背に当たっている。それは呼吸をするたびに上下に動いている。
しばらくそうして身を繋げてじっとした後。
大きな目だけを動かして背中にくっついている月を見て、竜崎は目を細めてわらった。
負けてやろうと思ったのだ。竜崎の負けずぎらいは、周知の通り。
しかしこればっかりは仕方無い。
「そうですね。十分過ぎるほどです」
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