Four day



優雅とリラクゼーションの粋を掻き集めた捜査本部の一室で、椅子のうえで膝を曲げたまま手足を凝らせ、浅いまどろみのなかで夢を見ていた。
見るのは勿論キラの夢だ。
キラ。

夢のなかはまだこの世に満ちた悪意によってキラが浮き彫りになリはじめた頃のことで、キラは闇のなかの意識体のようなものでしかなく、 そして夢のなかでこれは夢だと自覚している自分も、また世間においては闇の中の意識体のようなものとしか認識されていない。あくまで噂の範囲内である。
そうして夢の私は、椅子の上に座り込んで機密書類の白い束 ──、独自のルートで収集した公にされていないキラに関する調査報告書のうち、 すでに読み終えたものを床に散乱させ、まだ読み終えていない分の被害者の一人の殺害状況と略歴のページを読みかけの中途半端に指で抓んだまま、 うつらうつらと肩を揺らしていた。
そうしてキラの夢を見ていた。
やはり、キラ。

眠っても眠っても眠っても夢のなかでキラだけに囚われる。
Lたる自分が、そのときからずっと、たったひとりの犯罪者に夢の中まで占領されているのだから馬鹿馬鹿しすぎて笑うこともできない。
しかし夢のなかの出来事こそ現実の鏡である。このとき、キラは私の鏡にうつしだされた悪夢であった。 そののち、私はキラによって暴かれた現実となった。キラ。L。存在は表裏一体であり、 ともすれば同義である。同義である故に、キラが消えればLも消える。Lが消えればキラもいずれ消えるだろう。それは自然なことである。
だとすれば── と、私は考える。夢の中で。
いま、キラはふたたび闇の溶けて消えた。
そののちは──


「竜崎」
「……っ」
至近距離で声がして、ハっと目覚めた。
そこで、手首を掴まれていることに気付いて、そのリアルな感触に、びくりと肩を揺らした。
夢を見ていた。
たった今まで。
勿論、それはキラの夢で。
「そんなふうに居眠りして…あぶないよ。落ちそうじゃないか」
腰を屈めて私の顔を覗き込む、亜麻色の髪の秀麗な青年。
目の前に夜神月。
心配そうに眉をひそめている、美しい姿の青年。
つまりキラ。
私の夢。
── 否。
私の現実。
このところ彼はいままでに見たことのないような、穏やかな目線を私に向けてくるようになった。
慈しむような、まるで愛猫を眺めるようなやわらかく円い眼差しだ。
私は混乱する。
これが、──キラ?
「眠るのならちゃんとベッドに入った方がいい。寝室でもパソコンを使って調査は続けられるからね、僕ならどこでも構わないよ」
「………」
「……竜崎?」
ひんやりと冷たく、しかし現実に私を捕らえる指先。
この世に満ちた雑多の感情のなかから現実の存在として現れた。おまえはリアルだ。夜神月。 キラによって私は意識のすべてを奪われる。掴まれた手首から熱が伝わり、私はこうして白日の元に曝される。キラ──
否、キラによって暴かれた私は、Lだ。
混沌の闇の中から、おまえだけがゆいいつ、私を光のもとに引きずり出した。電光石火の勢いで、私だけがゆいいつ、 おまえを光のものとに引きずり出した。
「竜崎、大丈夫?」
だいじょうぶ?
だと?
ふざけるな。大丈夫ではないことぐらいわかるだろう。おまえこそ、だいじょうぶなのか。こんなふうに“キラ”として世界にあらわれて。私とこうして向き合って。 おまえはなぜあらわれた、キラとして。どうして私を現実にしたのだ。
「ライト、くん」
突如として胸を突き上げる衝動。
見上げた先の人について、またひとつ確信を深める。
私だけがおまえをリアルにし、おまえだけが私をリアルにする。
「月くんは、人が悪いです」
あっけにとられた顔をして、月は目を瞬かせた。
「……竜崎?」


なんという現実が訪れてしまった。
まるで悪夢だ、
とびきり上質の、



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