満月マンゲツ膨張ボウチョウE(2日目)


こわばった人さし指を熱く湿ったぬかるみに挿し込んで、動かす。
男を知らない身体は青くて固くて潔癖だ。腹をくくったつもりでも、僕は必要以上の緊張でいつもみたいな巧みな愛撫を施すことができない。 それなりにテクニックには自信があるのだけれど、…今日はそうもいかない。
もうすっかりと馴染んでしまった、うしろの孔とはまったく違う触感だ。入り口のあの固さはない。全部が柔らかくて全体が狭い。潤滑剤でぬめる指の一本程度なら差し込むことは容易だ。 なのに少しでも動かそうものなら膣全体がぎゅっと指を締め付けてくる。こんな狭いところに、本当に入れることができるんだろうかと心配になるけれど、 きっと竜崎は僕の弱音を許しはしない。
「力、抜いて」
一度指を抜いて潤滑剤を垂らし、指を増やして腹部側を撫で上げる。
「んっ」
痙攣するように竜崎が震える。立てた膝がよじれて、こらえ切れなさそうに僕の腕を挟む。抵抗らしきそれに対して微笑む。 小刻みに震える膝頭を掴み、ギリギリまでシーツに向かって押し広げる。
「ねえ、これじゃ気持ちよくしてあげられないよ?」
「ド下手クソって罵りますよ?」
間髪入れずに言い返してくる。あいかわらずの可愛げのない物言い。 カチンときて小さな若芽を指先で押し潰すように弄ってやると、竜崎はヒっと引き攣った声で鳴いた。 素直に喘いでいれば、僕だってもっと優しくしてやれるのだと内心、悪態をつく。 そうして滅茶苦茶にしてやりたいような残酷な気分になって、でもやっぱり僕には酷いことなんてできないと知る。 まだ誰にも触れられたことのない、僕以外を知らない潔癖な内側が痛みを感じることがないように、丁寧にじっくりと時間をかけて慣らす。
狭い内側は十分に広がらない。
それでも竜崎は無言のまま、先へ先へと僕を進ませつづけて止まることを許さない。
「…平気?」
ゆるく開いた片足を押しあげ、肩に乗せる。すると竜崎は、自分から僕の肩に腕を回して、受け入れやすい体位を推し量った。 身体は男を知らなくても、竜崎自身は全く何も知らないわけではないので、僕の動きに協力的だった。
「いいですよ」
白い胸部から長く長く息が吐き出され、薄い胸板がベッドに沈む。
足の位置を都合よくかかえあげるタイミングで顔を近づけ、半開きになった下唇を舌先でぬるりと撫でた。
涙に潤んだ瞳が、至近距離で僕の眼を覗き込んだ。
薄く笑う。
「そのままにしてて」
うん。大丈夫そう。
── というよりも大丈夫じゃなかったとしても、もう引き返すなんてできない。
リラックスしててと耳元で囁く。
昂ぶった陰茎を、潤滑剤と内側からにじみだした体液とで濡れた秘部に宛がう。
竜崎はもう一度ゆっくりと深呼吸をした。
息を吐き、脱力したところを見計う。
僕は、張り出した先端をうずめようと臀部を緊張させた。
「…くっ…」
挿入に慣れていない膣の固さと抵抗は、想像よりもずっと手強かった。根元を支え、ぐっと腰を落として押し込むようにするけれど、 上手く入らない。ぬるぬるとした感触で滑りやすくなっているのに、とにかく狭すぎだった。
ただそんな狭いところへ挿入しようとしている事実は、僕をひどく興奮させた。
「っ…」
竜崎の全身がこわばる。苦しさに唇を噛み締めながらも声をださないところはさすが。 冷たい汗をにじませながら、肩をすぼめて僕にしがみつき、じっと挿入の痛みに耐えている。
じりじりと少しずつ結合の深度を嵩ませ、張り出した部分を何とか全部押し込み、僕はいちど動きを止めた。
知らず知らず止めてしまっていた息を吐き出す。ドクドクと脈打っている血流がはっきりと感じられた。 狭い膣内に入れているのだと再認して、また性器が固くなるのを感じた。
「気持いい?」
わざと意地悪くささやく。
「馬鹿、ですか」
引き絞るような苦しげな呼吸の合間に、恐ろしく不機嫌に言い捨てられる。
「可愛くないね」
せっかく気をまぎらわせてやろうとしているのに。
…それは射精感を逸らそうとしている僕も同じなのだけれど。
しばらくじっとしていると、僕のサイズに馴染みだし、内側の緊張が徐々にとけはじめる。 呼吸が落ち着き、顔色を伺うと眉間の皺がわずかに弛みだしていた。それを待って、僕はまたそろそろと腰を進めた。 浜の浅瀬に打ち上げられた魚のように、腕のなかの身体がびくんと大きく跳ねる。 締め付けがきつくなって、もう半歩も進むことができない。
浅い息をしている表情を伺いながら、締め付けが弛むまで辛抱強く待ち、弛んできたところで少しだけ力をこめて押し入れる。 その繰り返しでなんとか前進するしかなかった。
目的地に到達するまでは、まだかなりの時間がかかるだろう。
すぐさま全長を埋め込んで腰をつきあげたい欲求はあったけれど、 そんなことをすれば華奢な身体を引き裂いて壊してしまいそうで、それが怖くていつも以上にゆっくりと中に入っていった。
竜崎はときおり悲鳴を噛み殺すように、ぐっと頬に力をこめて、口を閉ざしていた。特有の負けず嫌いと依怙地さとで、けして制止することはなかった。
そうした途中で、僕の先端がなにかの壁にぶつかった。
「……あぁ」
思わずと息が出た。
竜崎がしゃくりあげるような声を出す。クソ。こいつはひきつった呼吸に混じって含み笑いをしたのだ。
「竜崎」
険しさを込めた声で名前を呼ぶと、誤魔化して甘えるみたいに頬をすりつけてくる。
汗が滲んでしっとりとした頬同士を合わせ、僕の耳の中に舌をさしこみ、耳殻を唇で柔らかく挟む。 がさがさという音。こそばゆさに首をすくめたとき。
「……」
ぼそっと囁かれた。
「え?」
驚いて聞き返してしまったけれど、竜崎は目の端を細めるだけで、同じセリフを二度も繰り返すことはしない。
「………」
含羞を漂わせ、ふいっと目を逸らす。
呆気にとられて沈黙し、数秒後に我に返った。心臓がドクドクとスピードをあげて走りだす。
僕はもう何も言わず、もう半分くらいは入っているから手を離しても抜けないだろう、陰茎を手放し、 両腕で太腿ごと竜崎の腰を抱き寄せた。
「……っ」
ぐっと腰を深めると、竜崎の爪が僕の肩を抉った。
歯を食い縛り、声を殺す。
その唇が直前にささやいたこと。
鼓膜を揺さぶった冷やかな声はそれ自体の生々しさで、ひどく扇情的だった。
『躊躇わず、一気に入って下さい』
思い出すだけで熱くなった。
もう抑えられなかった。痙攣する腰を抱え直して、太くなったものを一気に奥まで押し込んだ。 あああっと鋭い悲鳴がこぼれた。ガクンと背中が仰け反って、固い止め具がはずれるように股関節がはずれた、そんな鈍い衝撃が伝わった。それが処女貫通の瞬間だった。
限界まで入って狭い内部で一ミリも動けなくなって、抱き合った体勢のまま硬直する。 竜崎が息を吸うごとにつよく圧迫され、射精してしまいそうな官能が背骨を這い上がる。ぎゅ、ぎゅと締め上げられる。
引き攣った息遣いが耳元で鳴っている。
「大丈夫?」
苦悶した表情のまま、竜崎が首を横に振った。
さすがに辛いのかもしれない。
「はやく、動いて」
なのに口から出てくるのはいつだって逆のセリフ。
「下さっ」
眩暈がするほど興奮する。
竜崎の、そういう痛々しいくらいの頑固さ。
激しく腰を前後に揺すりたい衝動を、それでもグッと奥歯で噛み殺して、ゆっくりと律動をはじめた。小さな動きからはじめて、だんだんと動きを大きくしていく。ふいに血の匂いが鼻をついた。結合部に目を凝らすと、陰部から太腿までが破瓜の血で染まっていた。 眉をしかめて竜崎の顔を見る。苦痛の表情のまま、口元だけで哂われた。
気にしなくていいと黒い目が告げている。
口元だけで笑みを返した。それから僕は真剣な気持ちで腰を動かした。 こんな大真面目なセックスはもしかしたら生まれて初めてかもしれなかった。 だけど普段よりずっと激しく興奮していた。いつもよりずっと生ぬるい動きなのに、心臓は張り裂けそうなくらい激しく鳴って、全身に血液を送り出し動いているのを感じていた。 全力疾走の最中に似た息苦しさだった。
そんな自分自身に、すこし困惑していた。竜崎は痛みに気を取られていて、それどころではないようだった。 狭い道を均すように何度もおなじリズムで擦りあげる。 なるべく痛くないように、新しい刺激を加えないように、ひとつの角度だけで丹念にうがつ。
射精の気配は、すぐそこまできていた。あともう少し、ちょっとでも刺激があればすぐにでも出てしまいそうだった。 でも竜崎が苦しいだけなのに、僕だけが興奮しすぎていってしまうなんて あんまりにも悲惨過ぎて気が引けた。竜崎にだって感じて欲しい。けれど初めての身体で快感を得るのはむずかしいということも分かっている。 せめて痛みが和らぐようにと、僕は、白い鎖骨の敏感なところに、くちびるをおしつけて強く吸い上げ、乳房を手のひらで包みつよく握った。
「あっ…」
甘ったるい響きの声が零れ落ちる。 それは単なる反射のはずだったけれど、声を出してしまった竜崎が、急に顔を赤くして、目をそらしたので、僕は驚いた。
「え?」
「な、んでもない、です」
「…もしかして、胸?」
「あ、あんっ」
今度はハッキリと嬌声がくちびるからこぼれた。痛いくらい、強く、乳房を揉んだら。
胸で感じることが恥ずかしいみたいで、竜崎はますます顔を赤くした。
ビックリした。なんか竜崎、可愛い…。
と思って、はっと我に返り、僕まで真っ赤になって狼狽した。
可愛いなどと思ってしまったことが 自分自身で意外すぎて狼狽した。心臓が不自然に跳ねて、ドキドキと高鳴る。下腹部の筋肉にはいっきに熱が集中して、ぐいっと固く持ちあがり、竜崎の体内をさらにつよく圧迫した。 猛烈な勢いで血が集るのがわかった。これは本当にまずい。
「ごめん、出そう」
口早に言って僕は腰を引いた。
「外に出すから」
「やっ」
ぎゅっと全身でしがみつかれた。性器を引き抜こうとしていた腰には、竜崎の足がからみついて動けない。
「中、に、出して、くださっ」
「ちょ、やだよっ」
「いいから、いっぱいに、してっ」
焦った。切れ切れに細い声で訴えられて激しく動揺した。
「足、外せよ!」
ただでさえ女性は中に出されることをいやがるのに、初めて、しかも中出しなんて普通じゃない。
そう思う反面で『出したい』欲求はいっそう明確になって、僕の抑制を壊しにかかった。 射精してしまいそう。冗談じゃない。なのに身体を引こうとしても、竜崎がそれを許さない。
「出るってば。中になんて出せない」
「いやです! わたしがいいって言っているんです!」
「でも、まずっ」
「駄目、抜いちゃ駄目、ああもう、面倒なことを言わせないで下さい。わたしはライト君だから、欲しいんですっ」
「竜ざき…っ」
「欲しいのは、月君の。初めての、セックスで、月くんの、こ…な…、ア、あっ!」
狭い中で陰茎が大きく膨らんだので、竜崎が驚きの声を上げた。びくんと震え、生温かい体液が中で動く感触を、 はっきりと感じただろう。
薄っすらと涙の膜の張った黒い目を丸くして、竜崎が僕を凝視する。
「ごめ、僕だけ…」
我慢できなかった。僕はもう止めようもなく、あっという間に、あああ…。
「………」
情けなさと恥ずかしさで目もあわせられない。
「………」
竜崎の視線が痛い…。
「…まあ、いいですけどね」
と、ため息をつきながら言われる。
居た堪れなさに、ゴメンと小さく呟く。 腰に絡んでいた足が離れて、僕はそのまま萎えた性器を引きずり出そうとしたけれど、 だめですよと柔らかい棘のような声で窘められた。
視線をあげる。
竜崎は、瞳を合わせて微笑んだ。
「もう一度、ちゃんとわたしが快楽を感じるように、動いてくれたら許してあげます」
「……」
「月君。だから…もう一回しましょう?」
「……」
「ね?」
上気した肌をさらして首を傾げてみせる。そのあまりのコケティッシュなしぐさにぐらっときて、僕の性器はふたたび固く勃起した。


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