茶会


「あーあ、また竜崎がケーキを残していますよ!」
買出しを終えて松田はホテルに戻ってきた。
両手にいっぱい抱えているのは主に甘党な指揮官が指定した洋菓子の類だ。
ふうー、運ぶだけでも緊張だよと大仰に息を吐いたあと、ふとテーブルを視ると、
苺のショートケーキが三分の一ほど食べ残してあるではないか。
ふわふわしたクリームと宝石みたいに真っ赤な苺が最高の逸品だ。
「いや残しているんじゃなくて…」
バインダーを抱えて通りかかった相沢が、あわてて松田を制するが、一瞬の出来事だった。
松田は、フォークも使わずにひょいと苺をつまみあげて口に放り込んでしまう。
一噛みで口いっぱいに赤い果汁が染みてくる。
甘酸っぱい芳香はパアっとひろがり鼻腔を刺激する。
ついでに生クリームも指ですくってぺろり。
ああ、なんて素敵な味だろう。
松田は幸福な声をあげた。
「おいひィ〜」
「ま〜つ〜だ〜…」
松田のハッピーに怨嗟の声が覆いかぶさった。
相沢はあーあーと額に手を当てた。
もう止めようもない。
レストルームから戻ってきた竜崎が、ゆらりと肩を慣らした。
「一度ならず二度、三度、四度、五度…。私のアフタヌーンティーの邪魔をして…」
「ヒイっ、りゅ、竜崎!?」
「歯ァ、食い縛りなさい」
「え、えええっ」

数秒、ブラックアウト。

唇が切れて、口のなかに苺と同色の液体が染み出したけれど、
ああ、味は全然違うんですね…。

松田はつぶやいた。



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