写真


その老人がワイミーズハウスに訪れると、
子供たちは大急ぎで鏡の前に走っていって、自分の身なりを確認する。
服の襟元を正して、前髪の乱れはきちんと櫛で梳いて、
手を洗い、歯磨きをしてクリーンにする。
普段は手に負えない悪ガキも、この日ばかりは無垢な天使の笑顔をうかべて、
カメラの前へ。

パシャリ。

キルシュ・ワイミーが持ち帰った写真の束を床に崩して、 一枚ずつ、部屋中に広げて置き、最後の一枚をしげしげと見つめたあとに、 Lはサテハテといったふうに首を傾げた。
「ワイミー。メロの写真がありません」
銀製ティーセットを運んできたワイミーも、サテハテ? と首を傾げた。
「メロでしたら、たしか最後から二番目に撮影したはずですが…」
「悪戯小僧にしてやられましたね?」
「どういうことです?」
ワイミーが問い返せば、Lは一枚の写真をクルリと裏返してワイミーに示した。

 trick or treat !?

それからまた写真をひっくりかえして、写真の表を見せた。
ニアのクルクルした髪が、金色のマーカーでまっすぐな線に塗りかえられていた。

ワイミーは目を瞬かせてから、はたと思い至った。
あの日はたしかハロウィン。
院の職員たちからお菓子の配布はあったものの、メロとしてはワイミー手ずからお菓子を与えて欲しかったのかもしれない。
そこでメロは、自分の写真を抜き取って、かわりにLの後継者として凌ぎを削る、ニアの写真に悪戯書き。
これは些細な意趣返し。
「これは大変失礼いたしました。申し訳ありません。L」
「仮にも彼らは次代のL候補生です。気付かずとも仕方ない」
「申し訳ありません」
言い訳もせず、重ねて深々陳謝する。Lは白髪の老翁を黒い瞳でひたりと見つめた。
「では失態の責任を取りますか?」
「はい」
ワイミーは神妙な面持ちで首を縦に振る。
それを承諾して、Lも肯いた。
「午後の予定はすべてキャンセルです。ワタリとしての仕事、ワイミーとしての仕事。全て」
「…はい」
「それからトレイをそこに置いて。こちらに座って」
「…?」
「ともにアフタヌーンティを愉しみましょう」
「……」
Lは写真をいとしげなまなざしでつまみあげた。
「私の過去は、この子たちのように写真に残すことができません。だから私との思い出をワイミーの記憶に残してください。 今日の午後、Lではない私の相手を。そうしないと…」
Lはめずらしく茶目っ気たっぷりの顔つきをして、ワイミーを見あげた。
「世界三大探偵の叡智を総動員して、悪戯しますよ?」



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