- Happy Birthday to L. - L誕記念SS 産まれてきてくれてありがとうの感謝を込めて カトリックでもない僕にとって、魔法のような呪文は聞きなれないものだった。 振り返った僕は、あまりに突拍子のないそれに思わず吹き出して、読んでいた文庫本を閉じる。 「ははっ」 ソファの真後ろから、幽霊のように白い竜崎が、のそりと隣へ座ろうと足を伸ばす。よっこらせと跨ぐ竜崎に手を貸しながら、クスクスと笑いがこぼれた。 「いいね、それ。」 頬杖をつきながら微笑むと、隣に腰かけた男はいつものように膝を抱えて座り込む。 「中々似合ってるよ。」 真ん丸い瞳とその下にくっきりと浮かび上がる深い隈、プラスして色白な肌はまるで幽霊のよう。こうして見ると、365日仮装しているようなものだな。 何が可笑しいって、そんな不気味な姿に余程似つかわしくない代物が頭についているのだ。 ツンと撥ねた黒髪の中から、同じように黒い三角の耳が二つ顔を出している。 「ハロウィンですよ。」 「竜崎ってカトリックだったわけ。」 世に言う猫耳。よくあるパーティーグッズのそれは作りからして言えば、到底精巧とは呼べない。 チラッと時計を確認すると、針は12時を回って5分を指していた。 「私は無宗教です。宗教というものは不利益をこうむる事が多いですから。」 「お菓子ならそこにあるよ。」 指をくわえながらうんざりとした竜崎に向かって、テーブルを顎で差し示した。 そこには、食べかけのケーキやらドーナツ、チョコレートといったお菓子の山が並んでいる。 「悪戯されますよ。」 「甘んじて受け入れましょう。」 無表情に鬱々とした瞳に見据えられながら、静かに頷いてみせた。尻尾が無いのが惜しまれるな、と心の中で呟く。 はぁっと脱力してため息を吐いた竜崎は、さながら猫のように月へしなだれかかり膝の上に寝転んだ。 膝枕の状態で仰向けになった気ままな猫を、穏やかに見下ろす琥珀の瞳。 「予想の範囲で、少々面白味に欠ける返答ですね。」 膝を折り足を動かしながら爪先を擦り合わせる。幼い仕草に口元が綻びながら、大きな猫の不満を聞き入れた。 「何、欲情したって言った方が良かった?」 「それも予想の範囲です。」 何処までも見抜いているんだな、自潮めいた微笑みに眉を八の字に下げ困ったような表情を浮かべる。そこには嬉しさも相まって、透き通る瞳は優しく見下ろす。 耳と同じ色の髪に指先を絡めながら、吸い付く感触を味わった。 滑らかな頬を包んで、身を屈め唇を近付ける。自然と交わされる口付けに、うっすらと唇を開いて密かな企みを、差し入れた舌と共に忍ばせた。 口内へ送られたそれに、竜崎がピクリと反応したのが分かる。ふわりと香る甘さまでもを送り込むように舌を絡め、ちゅっと音を残し離れた。微かに驚いた黒い瞳に僕は満足する。 「いつからですか?」 「今朝から。」 口を開いた竜崎からコロンと音がする。小さなピンク色の飴が白い唇の奥でちらついた。ストロベリーの香りと甘さ、長時間潜めていた名残が舌に残っている。 いぶかしげな瞳で見上げる反応は期待通り。 ふぅとため息を吐き、起き上がろうとする竜崎の手を取って、膝の上へ乗るよう促す。 「いつどんなタイミングで、なんて予想出来ないからね。」 跨って収まった細い腰に両手を回して、もっとと密着をせがんで引き寄せる。月の肩へ細い腕を回して、呆れたような表情を浮かべる猫にそっと囁く。 「誕生日おめでとう、L。」 本来の目的はこれだ。この世で一番始めに、この男の誕生を祝うのは自分。最も近しい場所で、産まれてきてくれた事に感謝する。 竜崎の表情は僅かに驚きに変化して、じっと月を見つめた。 「何故?」 「それぐらい知ってるよ。」 「いえ、そうではなくて。何故『L』と?」 「えっ?」 指摘された瞬間に僕は気付いた。それは、説明する程の事ではない無意識だったのだけど。 「あぁ、ただなんとなく。竜崎っていうのは強制された呼び名だから如何にも偽名って感じだろ。」 なんとなく、それ以外に特に理由はなかった。 「Lの名を隠す為の呼び名なら、現在本名に一番近しい名はLって事になる。もっともLなんて、一番偽名っぽいけどね。」 子首を傾げて、肩をすくめる仕草をする。本名を呼ぶ事も出来ないなら、きっとそれに近いものを自然と求めたのかもしれない。 無表情な竜崎が瞳をそっと伏せたので、応えるように唇を寄せる。 「だからかな。気になった?」 「いえ。」 そっけない返事を聞き終えてから、優しいキスをする。 嘘つきめ、と心中で悪態をつきながら舌を差し込む。 苺の甘さが再び香り先程よりも深く、濡れた生き物を味わう。もっと甘さに酔いしれたくて角度を変え食むと、絡めた舌先が飴を押し返すように器用に動き始めた。 負けじと抵抗してみせるけれど、思いの外本気の竜崎に口の中へ押し込まれてしまう。 同時に竜崎は頭についたカチューシャの耳を取って、薄い茶の頭へそっとつけ代える。 そうして飴玉を僕の口へ戻した途端、厚い唇はスッと離れていって、僕は思わず物足りなさに唇を追いかけた。しかし冷たい指先が触れ遮断されてしまう。 「お菓子はいらないから、悪戯させて。」 猫の耳をつけた琥珀の瞳が、不満気に揺れ苦笑いを浮かべた。 「駄目です。」 抑揚の無いはっきりとした声で拒絶され、月の表情がムッと不機嫌に変わる。 どこまでもムードの無い奴だ、と呆れてため息が出てしまった。 ふと、細い指先が月の頭から猫耳を奪って抜き取る。冷たい指先がそれを床へ投げ捨て、カシャンという音が背後から響いた。 首を捻って横目で確認しながら、相変わらずのぞんざいな扱いに仕様がないなと眉根が寄る。 瞬間頬を包まれた手にグイッと前を向かされた。 「悪戯はさせませんが、今日は私の誕生日なので、月くんを頂きます。構いませんか?」 間近に迫る熱い瞳に見据えられ、僕は驚きながらもふっと嬉しさに頬が緩んだ。 頂きたいのはこちらの方なのに、どこまでも負けず嫌いで、そんな欲深さに僕は。 「欲情した。」 YESの変わりにそう告げた。 細い体を抱きしめて、いつもの様にキスをする。 昨日も一昨日もした事が、この特別な日に変わらず触れ合える。 きっと、そんな当たり前の不変に感謝すべきなんだろう。 けれどそれ以上に僕は、二人共に迎えられる特別な日が、これで最後にならない様にと願って仕方ない。 -END- ---------------------------------------------------------- あとがき 最後まで読んで下さりありがとうございました。 このSSはLを愛する貴方さまに11/4までフリーに致します。 お気に召しましたらご自由にお持ち帰り下さいませ。 ではでは〜 kirara/crossover |